聖ホセマリアの生涯-40

聖ホセマリアは遠く離れたメンバーや友人たちを霊的に助けるため、自身が書いた『霊的考察』という本を彼らに薦めます。この本が後に43カ国語に訳され450万部が出版される『道』の原型になります。

『道』初版

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戦争中、聖ホセマリアは遠く離れたメンバーや友人たちの霊的肉体的な状態を心配していました。直接に会って話しをするのは容易なことではないので、通信を書いて郵送することを始めました。通信には仲間の近況とともに霊的な考察や勧めを書きました。それでも不充分だと考えた神父は、1934年に書いた『霊的考察』という本を薦めることを考えつきました。しかしそのためには本をポケット版にする必要があり、戦時中の物資不足のため作業がなかなか進みません。そのうちに神父はこの『霊的考察』に手を加えて、出版しようと思うようになりました。

師は若いときから頭に浮かぶ霊的な考えや体験をメモしていました。『霊的考察』はそれらを438の考察にまとめたものです。今回、その後に書かれたものも使って、より多くの考察を書いて出版しようと考えたのです。また本の名前を『道』にしました。こうして1939年9月末、現在では43カ国語に訳され450万部が出版されている『道』が世に出たのです。『道』では、章立てや文体も変更や修正がなされました。

著者は『道』を書いた目的をこう説明します。「ただあなたの記憶をよび起こしたいだけなのです。何かよい考えがあなたの心に浮かび、それがあなたの心を打つように。こうしてあなたが生活を新たにし、祈りと愛の満ちに分け入り、やがて英知と分別に富む人になるために」と。

ところで、内戦はスペインの国土と人々に大きな傷を残しました。戦争は多分にカトリック教会への迫害という面がありました。終戦直後にローマ教皇ピオ12世はラジオを通じて、「勝利と平和の賜に対して祝辞」を送るとともに、何度も「犯罪に対しては正義、誤りに対してはキリスト教的愛をもって」国家の再建に努めるよう励ましました。しかし、新しい国家は敗者を厳しく裁く態度を取りました。

また新政府は一党独裁的な政治体制となりました。宗教の自由が戻り、人々の間に再び宗教的情熱が高まってきましたが、キリスト信者が市民として政治などの世俗的分野では自由に活動する権利をもつという聖ホセマリアの教えには、新たな困難が出てきました。

尾崎明夫