聖ホセマリアの生涯-19

過労状態で心身共に疲れ果てていたホセマリア・エスクリバーに巧妙な誘惑がやってきます。

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過労状態にあった聖ホセマリアの頭に「平和で静かな生活がしたい」という考えが浮かんできました。たとえば、どこか田舎の小さな教会の主任司祭の仕事を探したらどうかというのです。これは神に託された仕事を放棄させようとする誘惑だと悟った神父は、要理を教えていた子供たちに祈りを頼むことで切り抜けました。しかし過労の方は解決されません。決めた時間に起床するのがとても難しく、一度起きてからまたベッドに横になることもありました。そこで起床時に「あとで少し昼寝しよう」と言い聞かせて起きる。その後、仕事を始めると「ホセマリア、まただまされたな」と言う、という工夫をしていたようです。

1932年の夏は前回見たような政治の混乱で休む間もありませんでした。やっと10月になって念願の長い黙想会に行くことができました。修道院にこもって沈黙のうちに祈りに浸るのです。この機会に三つの懸案を神の御前で考えました。

一つは法学の勉強を続けるかというものです。これはかつて父親に司祭になりたいと打ち明けたとき、父から勧められたことで、いわば亡き父との約束のようなものでした。時間もお金もないという悪条件を十分にわかった上でこれは続けることにしました。法学の知識はあとでオプス・デイの教会内での法律的問題を解決するときに役立ちます。

もう一つは大学教授の資格をとるかどうか、でした。これはたとえ経済的に助けになるとしても、社会での仕事を探す必要はないと結論しました。

三つ目は最も深刻なものでした。つまり、家族の問題です。オプス・デイの仕事に没頭しようとするなら、家族と別れるべきではないかという考えです。しかし、神の御前でこれまでのことを回想しました。経済的に困窮した家族が、自分の望みを叶えるためにいかに大きな犠牲を払ってくれたか鮮明に思い出しました。そして、「神のことは神の仕方でなされねばならない」という原則を思い出します。つまり、家族を扶養するという正義の義務を放棄することなく、オプス・デイ創立の仕事を続けるという困難極まる道を進む決意を新たにしたのです。後になって、母も姉もオプス・デイを立ち上げるため、唯一無二の助けを提供することになります。