使徒言行録を読むと、聖パウロの使徒的な旅を、生涯、助けた多くの協力者がいることに気づかされます。 異邦人への使徒であるパウロは、常に他者を頼り、自分ひとりですべてをやろうとせず、他者と協力することができる人でした。 「パウロは “ソリスト”として一人で行動するのではなく、教会という“私たち”の中で、これらの協力者たちと共に行動するのです。パウロのこの“私”は孤立した“私”ではなく、教会の“私たち”の中の“私”であり、使徒的信仰の“私たち”の中の“私”なのです」[1]。
彼の最も親しい仲間の中で、特に重要な役割を果たした人物は、聖バルナバでした。 キプロス出身のレビ族のユダヤ人で、イエスの復活後、エルサレムで最初に信仰を受け入れた一人です。 困窮者を助けるために、彼は所有していた畑を売り払い、そのお金を使徒たちに与えました（使徒言行録4･37参照）。 この寛大さは、孤立した出来事ではなく、彼の生涯を通して一貫していたものです。
福音が、シリアのアンティオキアで温かく受け入れられたという知らせがエルサレムに届くと、使徒たちはバルナバをそこに送ります。 「到着すると、神の恵みが与えられた有様を見て喜び、そして、固い決意をもって主から離れることのないようにと、皆に勧めた」（使徒言行録11･23）。その後、サウロを探しにタルソスに行き、サウロを見つけると、バルナバはサウロをアンティオキアに連れて行きます。 「聖霊によって送り出された」（使徒言行録13･4）バルナバとサウロは、その重要な都市を宣教するために、丸一年間共に働きます。 そこで、キリストの弟子たちは初めて〈キリスト者〉と呼ばれます。 その後、バルナバは聖パウロの最初の宣教の旅に同行し、キプロスと小アジア（現在のトルコ）を巡ります（使徒言行録13-14章参照）。「勇気に満ち」（使徒言行録13･46）、彼らは主のために多くの苦難を味わいます。 聖バルナバのおかげで、「主の言葉はその地方全体に広まった」（使徒言行録13･49）。
バルナバは「立派な人物で、聖霊と信仰に満ちていた」（使徒言行録11･24）。彼の一生を通して、その使徒としての最初の行いから死にいたるまで、福音の疲れを知らない証人でした。彼の使徒としての熱意は、典礼記念日に読まれる聖書の句に表されます。「行って、『天の国は近づいた』と宣べ伝えなさい。病人をいやし、死者を生き返らせ、重い皮膚病を患っている人を清くし、悪霊を追い払いなさい。（…）帯の中に金貨も銀貨も銅貨も入れて行ってはならない。旅には袋も二枚の下着も、履物も杖も持って行ってはならない。働く者が食べ物を受けるのは当然である」（マタイ10･7-10）。
バルナバが福音を広めるために熱心に働いたのは、使徒としての使命に自分の人生の意味を見出したからです。彼は主が弟子たちに求めたように、完全に寛大に働きました。「ただで受けたのだから、ただで与えなさい」（マタイ10･8）。使徒言行録には、神が彼の努力を豊かな実りで祝福されたことが記されています。例えばアンティオキアでの宣教のおかげで、「多くの人が主へと導かれ」（使徒言行録11･24）ました。彼の祝日における集会祈願の中で、典礼は、彼が熱心に宣べ伝えたキリストの福音が、言葉と行いによって、忠実に伝えられるようにと神に嘆願します。
聖ホセマリアはこう書いています。「この世に生きる人間にとって、何が宝物であるかを教えてあげるから、無駄にせず、活用しなさい。それは、飢え、渇き、暑さ、寒さ、苦しみ、不名誉、貧困、孤独、裏切り、中傷、牢獄などである」[2]。これらの宝物は、パウロとバルナバの宣教活動の冒険に頻繁に同行しました。「この使命が私たちに大きな寛容さを要求するのは事実ですが、これを英雄的な個人の事業と見なすのは間違いです。 福音化のあらゆる活動において、その主導権は常に神にあり、神は私たちをご自分と協力するようにと召され、ご自分の霊の力によって私たちを導いてくださいます。 （…）この確信があるからこそ、私たちは、私たちの全生涯を左右するほど厳しく挑戦的な任務のただ中でも、喜びの精神を保つことができるのです。 神は私たちにすべてを求め、同時にすべてを与えてくださるのです」[3]。
パウロとバルナバは、二度目の宣教旅行の初めに、若いキリスト者であるマルコのことで対立します。バルナバはマルコを連れて行こうとしましたが、パウロは、マルコが前の旅で自分たちを見捨てたので拒否したのです（使徒言行録13･13、15･36-40参照）。 この不和のために、二人の道は分かれました。 バルナバはマルコを連れてキプロスへ行き（使徒言行録15･39参照）、パウロは彼らを置いて旅を続けました。
聖徒の間にも意見の相違が生じることがあります。ある者が他の者と異なる意見や見解を持つのは当然のことです。「 聖人たちは 『天から下ってきた』わけではありません。聖人たちも、私たちと同じように複雑な問題を抱えた人間です。 聖性は、失敗しないことでも決して罪を犯さないことでもありません。 聖性は、回心し、悔い改め、進んでもう一度やり直す力によって、何よりも和解とゆるしの力によって成長するのです。私たちを聖人とするのは、決して過ちを犯さないことではなく、和解とゆるしの力です」[4]。
聖バルナバが経験した最初のキリスト教徒たちの雰囲気は、私たちの模範となります。なぜなら福音は、大きく異なる一人ひとりの人生を照らすからです。聖ホセマリアは、このような最初のキリスト教共同体から教訓を学びました。「オプス・デイのメンバーの間に存在し、これからも存在するであろう多様性は、善良な精神、誠実な生活、それぞれの正当な意見の尊重のしるしです」[5]。私たちは、聖母の取り成しを通して、聖バルナバの使徒的熱意を、そして、最初の弟子たちがしたようにキリスト教的雰囲気を活気づけるための恵みを、神にお願いすることができます。
すべてのキリスト者は、神から授かった賜物を頼りに、個人の召命に従って福音に仕えます。私たちが常に忠実であるために、天の母、使徒の元后の助けに頼ります。 私たちを決してお見捨てにならないよう、お願いします。
[1] ベネディクト十六世、一般謁見演説、2007年1月31日。
[2] 聖ホセマリア『道』194番。
[3] フランシスコ『福音の喜び』12番。
[4] ベネディクト十六世、一般謁見演説、2007年1月31日。
[5] 聖ホセマリア『会見集』38番。